知的障がいのある浩くんとお向かいのおじいさんのトラブルを解決するには?
自分の既成概念に気づき、自分と相手をともに活かす交流をめざす
『セルフカウンセリング』を普及するNPO法人です。
知的障がいがある浩くん(15才)は、お父さんが仕事に行っている間、たった一人でお留守番をしています。
お母さんは浩くんが幼い頃に亡くなりました。
10歳年上のお兄さんは東京で働いています。
浩くんはお父さんと二人暮らしです。
お向かいのおじいさんが、昼間は浩くんの身の回りの世話をしてくれています。
ある日、仕事から帰ってきたお父さんに、浩くんは泣きながら「おじいさんがいじめる」と訴えました。
お父さんは「そんなことはないよ。何かの勘違いだよ」と言って、浩くんに言い聞かせました。
お父さんは、仕事に行っている間に、浩くんの世話をしてくれるおじいさんにはとても感謝をしていました。
また、浩くんはみんなに好かれる子であってほしいと思っていました。
ある日、お父さんが仕事から帰ってくると家の前に人だかりができていました。
お父さんは浩くんに何かあったのかと心配になり、急いで人だかりの中心を覗きました。
すると、浩くんとお向かいのおじいさんとお巡りさんが何か話していました。
なんの騒ぎかと話を聞くと、おじいさんは「浩が家の塀に石を投げるから、お巡りさんに止めてもらった!」と言いました。
浩くんは、「おじいさんは僕を馬鹿にして悪口ばかり言って意地悪するから石を投げた!」と言いました。
お父さんは「そんなはずないだろ!おじいさんに謝りなさい!」と言いました。
浩くんは自分の気持ちを頭から否定されて、ますます興奮しました。
そして、ついに「おじいさんは僕を殺そうとしているんだ!」と言い出しました。
それを聞いたお父さんは浩くんを黙らせるため、浩君を殴りました。
その様子を見ていたお巡りさんが止めて、やっとおさまりました。
次の日、浩くんは東京で働いているお兄さんに、昨日のことを電話で話しました。
浩くんはお兄さんに「僕は、殺されちゃうよ」と言いました。
お兄さんはすぐにでも飛んで帰りたい気持ちでしたが、緊急事態宣言が出ています。
仕事も急には休めません。
お兄さんは仕方なくお父さんと電話で話をすることにしました。
お兄さんはお父さんの話を一通り聞いて、このままでは浩くんとお父さんの気持ちがバラバラになってしまうと心配になりました。
そんな時、おばさんから聞いたセルフカウンセリングのことを思い出しました。
おばさんは「セルフカウンセリングでは“相手の気持ちを受けとめる”ことを大事にしているのよ。相手と自分の気持ちがくい違った時には、相手の気持ちを受けとめられると相手が安心するから、自分の気持ちが相手に伝わりやすくなるのよ」と言っていました。
お兄さんは、今の浩くんとお父さんには“受けとめる”ことが大事だと思いました。
お兄さんはまずお父さんの気持ちを受けとめてみようと思いました。
「お父さん、浩の面倒見ながら仕事をして大変だね。自分が東京で仕事をしているから、お父さんに負担をかけているかもしれないね。
お父さんが仕事に行っている間、浩は寂しい思いをしているかもしれないね。
浩の話を頭から否定しないで、共感して聴いてあげてよ。
たとえば、(おじいさんが意地悪するんだね。)と一旦浩の気持ちを受けとめてよ。
浩は自分の気持ちを分かってほしいんだよ。
分かってあげれば浩の気持ちも落ち着くし、おじいさんに意地悪されないようにするにはどうすればいいかとか、これは意地悪だけどこれは意地悪ではないんだよってことも話合えると思うよ。」
一週間後、浩くんから明るい声で電話がかかってきました。
「僕、おじいさんと仲直りしたよ!」と言っていました。
お父さんも、お向かいのおじいさんのことばかりを気にして、浩の気持ちを全く考えていなかったと反省する気持ちをお兄さんに伝えました。
お兄さんは、今回、おばさんが言っていたセルフカウンセリングのことを思い出して、本当によかったと思いました。
セルフカウンセリングは商標登録されています。