「ココロとカラダをスッキリ!!」(その14)  牧野妙子

写真はイメージです(PhotoACより)
写真はイメージです(PhotoACより)

こんにちは。

セルフカウンセリング®という心理学(自己発見心理学)に基づいて、企業研修としてコミュニケーショントレーニングを行ったり、コミュニケーショントレーナーの資格取得のためのセミナーを企画運営しているNPOです。

セルフ・カウンセリングに関わって感じた各人の感想、思いつき等 あくまでも個人としての自由な意見・考え方をブログでお伝えしています。セルフ・カウンセリングを学ぶ上で、皆様の参考になれば幸いです。

前回に引き続き、専任講師の牧野妙子さんです。

 

(前回までのあらすじ)

 

夜遅くに晩酌をするご主人に不満を感じていた春美さん。

ご主人の健康を心配して、「早く切り上げて早く寝て下さいね」と声をかけます。

けれども、春美さんの言葉はなかなかご主人に伝わりません。それどころか、春美さんが言えばいうほど、ご主人の晩酌の時間はどんどん長くなっていきました。

春美さんは、ご主人とのやりとりをセルフ・カウンセリングで見つめてみました。

すると、自分の思っていることと言っていることの間にギャップがあることが見えてきました。

そのギャップを埋める心のセルフを表現してみると、自分がホンネを伝えることができなかった理由に気づく事ができました。

 

◇ギャップを埋める心のセリフを表現した記述

 

主人は冷蔵庫からビールを持って来た。

私は〈あっ、また晩酌が始まる。ここからが長いのよね。ビール飲みながら、テレビを見ながら、ゆっくりゆっくり食事をする。今からだと、食事が終わるのは11時過ぎかしら。早く片づけてノンビリしたいのに、何時まで経っても片付かなくてイライラする。

食事が終わってから片づけなくてはいけない私のことも考えてほしいわ。

でもね、晩酌をゆっくりしたいという主人の気持ちも分からないでもない。唯一の楽しみだものね。毎日本当に大変だと思う。せめて晩酌してノンビリしたいよね。その楽しみを、私が楽をするために奪うのは、私のわがままだ。

あっ、でも、夜遅くまで晩酌するのは、主人の身体のタメに良くないことも事実だ。

そのことを言って、晩酌を速めに切り上げてもらうのは、私のわがままにはならないよね。

主人のために言っているのだから〉と思った。

私は「晩酌は早く切り上げて下さいね。身体のことも少しは考えないと」と言った。

 

◇ 伝えたいけど伝えられない

 

春美さんは、自分の中の“伝えたい、でも、伝えられない”という矛盾する気持ちに気づきました。

この矛盾する気持ちを、対立する気持ちとして、そのまま表現することで、この時の自分の気持ちを理解する事ができました。

〈片づけができないから早く食事を済ませてほしかったんだな。でも、晩酌を楽しみにしている主人の気持ちも分かるから、それを素直に言うことができなかったんだ。自分の都合で主人の楽しみを奪うような気がして、気が咎めたんだな〉というように。

こんなふうに理解することができると、自分の気持ちが落ち着くのを感じました。

自分のホンネを一生懸命抑えて、とにかく早く晩酌を切り上げさせなければ、と必死で無理強いしていた自分の姿が、なんだか少し可笑しく感じられました。

自分のことを自分で笑うゆとりが生まれると、春美さんの中に、〈自分の気持ちを主人に伝えてみよう〉という気持ちが自然と生まれてきました。

 

◇ 自分の気持ちが伝わった

 

ある日、ご主人が晩酌を始めようとした時、春美さんはこんな風に話しかけました。

 

「少しだけ話があるんだけど、聞いてくれるかな。

これまで、晩酌を早く切り上げて、と何度も口うるさく言ってきたでしょう。

あなたの身体が心配だ、と言ってきたのだけれど、もちろん、それは本当の気持ちなのだけれど、それだけではなかったの。

晩酌が長引くと、後片付けが遅くなるでしょう?

それが、だんだんシンドくなっていて、できるだけ早く片づけてしまいたいと思っていたの。

でも、ホンネをそのまま言うのは、わがままな気がしてなかなか言い出せなかった。

あなたが晩酌を楽しみにしていることは、良くわかっていたので。

毎日大変な仕事をしていると思っているし、せめて夜ゆっくり晩酌したいという気持ちは当然よ。

でも、自分がシンドイことも何とかしたい。それで、あなたの身体のことをタテマエにして、何とか晩酌を早く切り上げさせようとしたの。

ゴメンナサイ」

 

不思議なほど、落ち着いてご主人に自分の本当の気持ちを話すことができました。

すると、それまで、何も言わなかったご主人が春美さんに自分の気持ちを話し出しました。

 

「わがままじゃないよ。遅くまで付き合わせてしまって悪かったね。

早く終わらせなくてはという気持ちはあったんだけど、せめて夜ぐらいはくつろぎたかったんだ。

君から『早く切り上げて』と何回言われても、聞く気になれなくて、返事もしなかった。

『意地でも早く切り上げてやるか』っていう気持ちになってしまっていた。

でも、確かに身体にはよくないと思うので、少し早めにきりあげられるように努力はするよ」。

春美さんは、自分の思いがご主人に伝わったことを感じました。

 

◇ 落ち着いた気持ちで伝える

 

セルフ・カウンセリングで自分を見つめて、自分の心の中を理解する事ができると、自然と自分の気持ちを素直に相手に伝えたくなります。

この時の春美さんも、気負いもなく、落ち着いた気持ちで自分の気持ちをご主人に伝える事ができました。

 

この、“落ち着いた気持ちで”ということが、コミュニケーションでは、とても大切です。

〈なんとか相手に言うことを聞かせなければ〉と思っている時には、心の奥に、不安感が潜んでいます。

不安感に駆られて言葉を発すると、その言葉がけは、自分の考えの押しつけになります。

相手が弱気なタイプの人であれば、その押しつけを受け入れるかもしれません。けれども、相手は相手自身の本当の気持ちをガマンしてムリして受け入れる事になります。

相手が強気なタイプの人であれば、その押しつけに反発して、こちらを攻撃してくるかもしれません。

いずれにしても、自分の気持ちを押しつけている限り、自分の気持ちは相手に届きません。

 

落ち着いた気持ちで、〈相手に気持ちを伝えたい〉と思った時、初めて相手に届く言葉がけが可能になるのです。

 

◇ 自己理解からコミュニケーションが生まれる

 

このような心の落ち着きは、自分のありのままの気持ちをそのまま受けとめた時に生まれます。

相手に届く言葉がけは、まず自分の気持ちをそのまま理解し受けとめることから実現します。

 

相手に届く言葉がけ、というと、どのような言葉を選択するか、とか、どのように伝えるか、とかいうような伝え方のスキルに関心が向きがちです。

けれども、その前に、自分が自分のどのような気持ちを相手に伝えたいと思っているのかを、ちょっと立ちどまって見つめてみることが必要なのではないでしょうか。

自分がどんな気持ちを伝えたいと思っているのかということは、分かっているようで、実は分かっていないことが多いのです。

 

相手に届くコミュニケーションは、まず自己理解から。

セルフ・カウンセリングでは、何よりも自己理解を大切に考えています。

 

完 

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コメント: 2
  • #1

    東 由紀子 (水曜日, 29 3月 2023 10:08)

    毎晩、晩酌をするご主人の気持ちをいちはやく理解できて良かったですね。ご主人の言い分も理解されたようですね。素直な気持ちで接することができ安心されたのではないでしょうか?

  • #2

    東由紀子さんへ 牧野妙子より (水曜日, 29 3月 2023 18:52)

    東 由紀子さん
    いつもコメントを有難うございます。
    今回春美さんは、ご主人にホンネを伝えることができなかった理由に気づいて、やっと自分の本当の気持ちを素直に伝えることができました。
    落ち着いた気持ちで伝えたので、春美さんの思いが、ご主人にも届いたようですね。春美さんも安心したことでしょう。
    相手に届くコミュニケーションにはまず自己理解が大事ですね。
    最後まで、読んでいただいて有難うございました。